むし歯や歯周病を調べる際、歯の状態や歯肉の状態を視診や触診することは大切ですが、詰め物や被せ物の内部のむし歯や歯周病で溶かされている骨の状態など見えない所を調べるためにレントゲンが重要となります。近年、歯科用レントゲン装置の進歩により精度の高い情報を得ることができ、従来見過ごされてきたような疾患を見つけるために有用とされています。一方で、レントゲン撮影では放射線被曝を避けられず、身体への影響を考えなければなりません。今回は歯科用レントゲンの被曝の安全性についてご紹介いたします。
放射線撮影の原則
放射線防護の三原則として、行為の正当化、防護の最適化、個人の線量限度が定められており、このうち医療被曝については例外として線量限度を適用しないとされております。放射線を使うことで得られるメリットが放射線の影響によるデメリットを上回る場合にのみ行為が認められ、そのうえで合理的に達成可能な限り被曝量を減らすことが求められます。歯科領域において、検査のために早期発見・治療を行えるメリットが放置されて歯を失うデメリットに比べて大きく、防護エプロンの着用など被曝を最小限に抑えることで放射線の仕様が認められております。
自然被曝について
私たちは日々の生活の中で、大気、宇宙、大地、そして食物から放射線の被曝を受けています。日本人の1人当たりの平均的な自然被曝量は1.5ミリシーベルトで世界の1人当たりの平均よりも少ない値となっています。一般的に、100ミリシーベルト以下ではがんの過剰発生は見られないとされており、自然被曝による身体への影響はほとんどありません。歯科治療で使用される放射線量は口内法で0.01ミリシーベルト、パノラマ法で0.03ミリシーベルト、歯科用CTで0.1ミリシーベルトと非常に少なく、加えて防護エプロンの着用により被ばく量を抑えているため体への影響は少なく、お子様や妊娠中の方でも安全に撮影することができます。上述したように、レントゲン撮影を行うことで疾患の見落としを防ぎ、早期治療に努めることでお口の中の健康を維持することに役立ちます。(ただし、近年防護エプロン着用により放射線が散乱するという見解もあり、撮影時に着用しない歯科医院もあります)
代表的な歯科用レントゲン装置
歯科用レントゲン装置は従来のアナログ式のフィルム撮影からデジタル式に進歩しており、低線量で高解像度の画像を得ることができるようになっております。また、従来のフィルムデータからデジタルデータを使用することで、フィルムの劣化を防ぎ、撮影回数を減らすことができます。歯科治療では撮影部位や目的により撮影法を使い分け、不要に照射野を広げず、被曝を最小限にするよう撮影を行い、また、近年では歯科用CTの進歩により3次元的に撮影することでより精度の高い診断が可能となり、より質の高い治療をご提供しております。以下に代表的なレントゲン撮影法をご紹介いたします。
口内法撮影
最もよく使われる撮影法で、歯や歯根、骨の状態を精度よく確認できます。お口の中に小さなフィルムを入れて撮影するため、他の撮影方法に比べ照射野が狭く低線量で使用することができます。歯と歯の間のむし歯や歯を支えている骨の状態の確認、根管治療後の確認などに使用されます。
パノラマ撮影
頭頚部の周りを1周する大きな装置で、主に顔面の下半分を照射することで口腔内全体を撮影することができます。撮影範囲は上下の歯および顎骨はもちろん顎関節や上顎洞まで一度の照射で撮影することができ、低線量で多くの情報を得ることができます。口内法に比べ、解像度は劣りますが、全顎的な歯周病や親知らずの状態の確認、顎関節症や顎骨の病気の診断に使用されます。
頭頚部セファロ撮影
矯正治療では骨格の状態を調べるために、規格撮影による頭頚部全体の前方および側方の撮影を行います。歯を並べるうえで土台となる顎骨の形はもちろん骨格系を調べることは重要で、特に小児矯正の場合では顎骨の成長を調べることが必要となります。出っ歯や受け口が骨格、顎骨、歯のどれに由来するのかを診断するために有用です。
歯科用CT
近年、歯科用CTの進歩と普及により従来の2次元的な撮影よりもより多くの、そしてより精度の高い情報を得られるようになっております。医科用CTに比べ低線量で解像度が高い特徴を持ち、さらに照射範囲を任意に設定できるために必要な部位に最小限の被曝で撮影を行うことができます。複雑な根管形態や顎関節の形、インプラント治療のための骨の状態の確認などによく使用され、また近年では摂食・嚥下や無呼吸症候群との関連により気道の形の診断にも使用されております。
まとめ
むし歯や歯周病は進行を放置すると状態によって抜歯となる場合があります。見えない骨の状態や顎関節、気道など顎口腔系として管理する上でレントゲン撮影は重要であり、歯を失わないために、そして疾患の早期治療のために必要となります。歯科治療時におけるレントゲン撮影の安全性をご理解いただき、必要な際には撮影にご協力いただければ幸いです。