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2024.6.22 歯根破折について〜歯根破折を予防するためにできること〜

歯根破折は、歯科医療において重要な問題の一つです。

歯の根(歯根)に亀裂が走ったり割れたりすると、歯は深刻なダメージを受けます。
歯根が破折した歯には痛みや腫れが起こり、進行すると歯を残すことが難しくなってしまいます。

この歯根破折はさまざまな原因によって引き起こされ、治療の難しさや予後の不確実さが特徴です。
歯根破折は予防が一番肝心。

今回は、主に根管治療を受けた歯の生じる歯根破折とはどんなものなのか、そして予防するための方法を解説していきます。

目次

◯歯根破折とは
 ◆破折は歯を失う原因の第3位
 ◆根管充填歯に歯根破折が起きやすい理由
◯歯根破折の特徴
 ◆歯根破折を起こしやすい歯種
 ◆年齢
◯歯根破折の症状
◯歯根が破折した歯はどうなるの?(歯根破折の予後)
 ◆抜歯
 ◆保存療法
◯歯根破折を予防する方法
 ◆ファイバーコア
 ◆ファイバーコアの特徴
◯まとめ

歯根破折とは

「歯が折れる」ことはみなさんご存知ですか。
交通事故やスポーツ、転倒などで歯に大きな力が加わると、歯は横や斜めに折れたりします。

実は、歯は縦にも折れるのです。
この縦の破折は、歯肉の奥の歯根部分にまで及ぶことがあります。

目で見て確認できる破折と違い、歯根部に起きた破折は自分の目で確認することができません。
歯根破折の初期は、何となく違和感があるなどの軽い症状しかない場合が多いです。

しかし、破折を何もせず放置しておくと、周囲の組織にも影響が及び、やがては歯を残すことが難しくなってしまいます。

破折は歯を失う原因の第3位

2018年の調査によると、歯を失う三大原因は以下のようになっています。
1位‥歯周病(37.1%)
2位‥むし歯(29.2%)
3位‥破折(17.8%)
破折による抜歯は抜歯原因の第3位で、その割合は年々増加傾向にあります。

破折によって抜歯になる歯の多くは、転倒などの外傷によるものではなく、根管充填歯(歯髄を除去して根管治療を行った歯)です。

歯髄とは歯の神経のことを指します。
実際、歯根破折歯の79%は根管充填歯といわれています。

根管充填歯に歯根破折が起きやすい理由

では、なぜ歯髄を除去すると歯根破折を起こしやすいのでしょうか。

歯髄を除去すると、歯の質が低下すると思われがちですが、実は、歯髄の有無で歯の性質に差は生まれません。

根管充填歯に歯根破折が起きやすい理由は以下の2つです。

①残存歯質の減少による強度不足
歯髄を除去する原因の多くは、進行したむし歯です。
進行したむし歯は歯の大部分を侵食します。
歯髄を除去し、根管治療を行うには、感染源であるむし歯を全て除去する必要があります。
往々にして、歯髄を除去して根管治療を行う歯は、健全な歯質が多く失われているのです。
残された歯質が少なくなるので歯の強度が低下し、咬合力などの負荷に対する抵抗性が落ちて破折しやすくなります。

②歯髄の有無によって、咬合力の感じ方が異なる
歯髄を除去すると、残存している場合と比較して咬合力を感じるセンサーが鈍くなるといわれています。


約2倍の負荷をかけないと、歯髄を除去した歯は痛みを感じません。

咬合力を反射的に抑制する機能が低下しているので、無意識に強い負荷をかけてしまい、その結果破折しやすくなるのです。

歯根破折の特徴

歯根破折の起きやすい歯種

歯根破折には起こしやすい歯種(歯の種類)があります。
虫歯のなりやすさや咬合力の負荷が影響しています。
1位 下顎大臼歯
2位 上顎小臼歯
3位 上顎大臼歯
4位 上顎前歯
5位 下顎小臼歯
6位 下顎前歯
 大臼歯‥前から6、7、8番目の歯
 小臼歯‥前から4、5番目の歯
 前歯‥前から1、2、3番目の歯

年齢

歯根破折は40代から発症し、50〜79歳で高頻度で認められます。

歯根破折の症状・検査方法

歯根破折を起こした歯のほぼ100%で、噛んだ時の違和感や痛みなどの打診症状が認められます。
その他にも約80%で歯肉の発赤、37%で歯肉の腫れ。
深い歯周ポケットの形成や、瘻孔(歯肉内に溜まった膿の出口)もみられます。

歯根破折を起こしているかの検査では、歯周ポケットの測定とレントゲンがよく使用されます。
歯根破折を起こすと、破折線にそって深い歯周ポケットが形成されます。

レントゲンでは特徴的な画像を示しますが、初期ではその兆候が認められないことが多いです。
近年では、歯科用実体顕微鏡が普及し、破折の診断に役立っています。

歯根破折の早期診断には打診と歯科用実体顕微鏡による視診が最も有用です。

歯根が破折した歯はどうなるの?(歯根破折の予後)

歯根が破折した場合の対処には以下のものが挙げられます。

抜歯

破折の状態にもよりますが、ほとんどの破折症例では抜歯が選択されます。
これは、下に示す歯を残す方法が難易度が高く、その予後も不安定なことが原因です。

保存療法

初期の破折に対しては、以下の方法を試みて歯を残すことも行われています。
しかし、初期でないと破折線にそって感染が進み、成功率は下がってしまいます。

口腔内接着直接法

破折線をその場で塞ぐ方法です。
しかし、感染源の除去と封鎖が不完全になりやすく、成功率にはばらつきがみられます。

口腔外接着再植法

破折歯を一度抜き、口の外で感染源の除去と封鎖を行い、抜いた場所に戻す方法です。
破折歯を砕かず抜歯できるか、再植が成功するか、全身疾患はあるのかなど予後に影響を与える因子が多く、成功率は不安定です。

歯根破折を予防する方法

これまでみてきたように、歯根破折は一度起きてしまうと歯の保存を極めて難しくします。
歯根破折は破折させないことが一番大切なのです。

歯根破折を予防するために、現在最も有効と考えられているのは、ファイバーコアの利用です。

ファイバーコア

根管充填歯では、根管治療後に歯を噛めるように形をもとに戻していきます。
まず、むし歯で大きくあいた穴を埋めます。

この時に使用される材料の1つがファイバーです。
この部分をコアと呼ぶのですが、コアに使用される材料には、ファイバーの他に金属、レジン(強化型樹脂)があります。

それぞれの材料と破折の発生率は以下のようになっています。
ファイバーコア‥0.04%
レジンコア‥0.06%
金属コア‥0.20%
金属コアはファイバーコアと比べて、およそ5倍破折が起こりやすくなるのです。

歯根破折の72.5%が金属コアだったという調査報告もあります。

また、レジンコアはファイバーコアと同程度の発生率ですが、適応症例が限られます。
一方、ファイバーコアは適応症例の幅が広く、ほとんどのものに対応可能です。

ファイバーコアの特徴

ファイバーコアの特徴は主に次の5つがあります。
・金属材料に比較して、象牙質に近似した硬さを有する
・金属アレルギーの場合も使用可能
・接着剤との相性に優れている
・むし歯になりにくく、歯の変色を起こさない
・金属材料と比較して容易に削ることができるので、再治療が必要になった場合、歯質の喪失が 少ない

メリットがたくさんあるファイバーコアですが、現在は保険適応外のため価格が高く、その点が唯一のデメリットとなっています。

まとめ

歯根破折は、歯の保存を揺るがす緊急事態です。
しかし、根管治療をした歯はどうしても歯根破折のリスクが上がってしまいます。
歯根破折を起こさないためには、適切な治療と材料の選択がとても大切です。

また、噛み合わせは日々変化しています。
1本の歯の治療が終了したらそれで終わりではなく、定期検診を受けることで破折のリスクを減らせます。

根管治療を受けた場合は定期検診を受け、歯を守っていきましょう。