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2024.6.22 気になる子どものお口ぽかん〜口腔機能発達不全症とは〜

「口腔機能発達不全症」という疾患名をきいたことはありますか?

これは、「お子さんのむし歯や歯肉炎など従来の歯科疾患以外で、お口に関する症状を医学的に対応していきましょう」というものです。

日本において2018年に新しく設定され、その治療が保険適応で行われています。

今回は、この「口腔機能発達不全症」がどのような疾患なのか、なぜ対応が必要なのかを解説していきます。

目次

◯口腔機能発達不全症とは
 ◆定義
 ◆どんな症状なのか
◯お口ぽかんの原因
 ◆口呼吸
 ◆口唇閉鎖不全
◯お口ぽかんがもたらす弊害
 ◆むし歯や歯肉炎になりやすくなる
 ◆口臭が強くなる
 ◆舌突出癖
 ◆歯並びが悪くなる
 ◆発音機能の低下
 ◆咀嚼・嚥下機能の低下
 ◆姿勢が悪くなる
◯口腔機能発達不全症はどうして医学的な介入が必要なのか
◯治療方法
 ◆鼻閉を改善し、鼻呼吸を意識する
 ◆口を閉じる筋力を強化
◯まとめ

口腔機能発達不全症とは

口腔機能発達不全症とは一体どのような状態を指すのでしょうか。
日本歯科医学会では、口腔機能発達不全症を以下のように定義しています。

定義

「食べる機能」、「話す機能」、「その他の機能」が十分に発達していないか、正常に機能獲得ができておらず、明らかな摂食機能障害の原因疾患がなく、口腔機能の定型発達において個人因子あるいは環境因子に専門的関与が必要な状態。

簡単に言うと、病気が原因ではなく、食べたり話したりすることがうまくできず、専門的な援助が必要な状態ということです。

どんな症状なのか

口腔機能発達不全症では、以下の症状を認めることが多いです。
・上手にかめない
・上手に飲み込めない
・上手に発音できない
・お口を閉じることができず、常にぽかんと開けてしまう
特に、お口を常にぽかんと開けてしまう症状は、口腔機能発達不全症のその他の症状を誘発します。
2021年に行われた全国調査で、3歳から12歳までの30.7%にお口ぽかんが見られることが分かりました。
これは、6歳児における2022年のむし歯有病率とほぼ同じ割合です。
現在、口腔機能の健全な発達は、従来の歯科治療と同じくらい重要であると認識されるようになってきています。

お口ぽかんの原因

では、口腔機能発達不全症の主原因となるお口ぽかんがなぜ起きるのでしょうか。

お口ぽかんが起きる原因は以下の2つに分けられます。
・口呼吸
・口唇閉鎖不全

口呼吸

口呼吸とは、何らかの原因によって通常の鼻による呼吸ではなく、口で呼吸してしまう状態を指します。
原因には、鼻疾患や扁桃腺の肥大による鼻腔の閉塞、上顎骨の発達異常による口唇閉鎖不全(上顎の骨がしっかり発育せず、上の歯が出っ歯になってしまい、口唇を閉じることができない状態)、そして口で呼吸してしまう癖(習癖)などが挙げられます。

口唇閉鎖不全

歯並びや顔面の骨格の不調和によって口を閉じることが難しく常に開いた状態になってしまうことを指します。
無理に閉じようとすると口唇を閉じる筋肉に過度の負荷がかかり、顎先の皮膚にしわが寄ったりします。

お口ぽかんがもたらす弊害

お口ぽかんには、以下のような弊害が挙げられます。

1,むし歯や歯肉炎になりやすくなる
2,口臭が強くなる
3,舌突出癖
4,歯並びが悪くなる
5,発音機能の低下
6,咀嚼・嚥下機能の低下
7,姿勢が悪くなる

むし歯や歯肉炎になりやすくなる

お口ぽかんによって口腔内が乾燥すると、プラークが歯に付きやすくなります。
その結果、むし歯や歯肉炎になりやすくなってしまいます。

口臭が強くなる

口腔内の乾燥により、唾液の自浄作用が働かず口腔内が不潔な状態になります。
細菌の繁殖も相まって口臭の原因となります。

舌突出癖

通常、嚥下をする時人は口を閉鎖状態にして行います。
お口ぽかんでは唇が閉じないので、代わりに舌を上下の歯の間に挟み込み、擬似的に口腔内の閉鎖状態を作り出します。
また、嚥下しない時でも舌を突出させることが癖になってしまうこともあります。

歯並びが悪くなる

歯並びは、骨格だけでなく、頬や口周りの筋肉、舌など軟組織の力も関わって決まっていきます。
お口ぽかんだと口周りの筋肉の力が弱く、前歯が前に出てしまういわゆる出っ歯の状態になりやすくなります。
また、舌突出癖がある場合もやはり舌の力で前歯を前に押しだして出っ歯になるケースがあります。

発音機能の低下

発音は、舌や口唇の動きに大きく影響されます。
お口ぽかんによって舌や口唇の動きが阻害されると上手に発音することが難しくなります。

咀嚼・嚥下機能の低下

咀嚼や嚥下も、舌や口唇が正しく使えないと上手にできません。
お口ぽかんの場合、咀嚼に時間がかかったり、嚥下時に舌の突出が見られたりします。
嚥下がうまくできずにむせの症状も認められます。

姿勢が悪くなる

お口ぽかんの状態では、顔が前に出て猫背になり姿勢が悪くなります。
姿勢が悪いと集中力も落ちてしまいます。

口腔機能発達不全症はどうして医学的な介入が必要なのか

口腔機能発達不全症に医学的な介入が必要な理由には以下の2点が考えられます。
1,自然治癒が難しい
2,一度獲得した習癖を治すことは難しい

自然治癒が難しい

お口ぽかんは小さい子どもにみられる癖で、成長とともに自然になくなっていくと思われがちです。
しかし、口腔機能発達不全症の主原因でもあるお口ぽかんは子どもの成長発達過程において自然治癒が難しいと言われています。
2021年に行われた、お口ぽかんに関する全国調査では、お口ぽかんの有病率が年齢とともに増加していました。

一度獲得した習癖を治すことは難しい

小児期に正しい咀嚼や嚥下を身につけることは、誤嚥性肺炎を予防し健康長寿につながります。
小児期に身につけた方法を大人になってから改善させていくことは大変な労力が必要です。

治療方法

口腔機能発達不全症の治療方法には以下のものがあります。
1,鼻閉を改善し、鼻呼吸を意識する
2,口を閉じる筋力を強化
 ・口唇マッサージ
 ・生活・遊びの中で口唇閉鎖
 ・口唇閉鎖訓練
 ・咀嚼・嚥下訓練

鼻閉を改善し、鼻呼吸を意識する

鼻閉の原因には、鼻炎アレルギーや扁桃腺の肥大などがあります。
当てはまる場合は耳鼻科での治療を行います。
また、鼻で呼吸することを意識して行い、健全な成長発育へと導きます。

口を閉じる筋力を強化

口を閉じる筋肉を強化する方法は以下の4つが挙げられます。
・口唇マッサージ
・生活・遊びの中で口唇閉鎖
・咀嚼・嚥下訓練

口唇マッサージ

歯磨きの仕上げ磨きの時などに、保護者がお口の周りをマッサージして筋肉をほぐしてあげます。
凝り固まった筋肉をほぐすことで動きがよくなります。

生活・遊びの中で口唇閉鎖

風船(紙風船)を膨らませる、おもちゃの風車を回す、吹き戻し、シャボン玉、ろうそくの火を消す、熱いものをフーフーして冷ます、大きな口を開けて歌う、早口言葉、にらめっこ、変顔をする、など、子どもが楽しめる方法を取り入れます。

口唇閉鎖訓練

「りっぷるとれーなー」など、専用の道具を使用して口唇閉鎖機能を向上させます。

咀嚼・嚥下訓練

ガムを食べることができる年齢であれば、ガムをかむことで、咀嚼機能を訓練することができます。
また、ガムをかむことで筋力アップにもつながります。

まとめ

口腔機能発達不全症は、新しい疾患名です。
しかし、「食べる」、「話す」、「呼吸する」ことは生きていくために必須のことであり、この機能を正しく獲得することは、子どもの成長発育にとってとても大切です。
症状を抱えたままの期間が長くなるほど、改善させるための時間を要します。
少しでも気になる症状があれば、気軽に歯科医師に相談してみてください。