口には、話す・食べる・呼吸する・笑う、など様々な機能があります。
この口の機能がしっかりと使えることは、健康に長生きするために欠かせないものです。
高齢化に伴い、日本では近年高齢の方のお口の機能の低下が問題になっています。
歯科では「口腔機能低下症」という病名が付けられ、それに対する検査やリハビリテーションなどを行うことができます。
口腔機能低下症の診断項目に「舌圧:舌の力」というものがあります。
舌の力というと普段なかなか気にすることはない方が多いと思います。しかし、この舌の力はお口の機能を保つためにとても大切なものなのです。
今回は舌圧がなぜ大切なのか、舌圧計とはどのようなものなのかについてご説明します。
目次
口腔機能低下症とは
歯科では2018年に口腔機能低下症という病名が保険収載されました。口腔機能低下症はその名の通り、咀嚼、嚥下、構音、唾液、感覚など様々なお口の機能が低下した状態です。加齢が原因になることが多いですが、他にも病気や障害が原因となることもあります。口腔機能低下症の診断は7つの項目(口腔衛生状態不良、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能低下、嚥下機能低下)のうち3つ以上があてはまると診断されます。
口腔機能の低下は栄養状態や全身の筋肉量などにも影響を与え、高齢の方は要介護状態につながるともいわれています。
舌の力:舌圧がなぜ大切か
口腔機能低下症には7つの診断項目があり、その中の一つが舌の力である舌圧なのです。
舌はお口の中でどのような働きをしているか、舌圧が下がるとどうなるかについてご紹介します。
◆舌は食事の時に食べ物を送り込む
舌は筋肉の塊で、口の中でとても複雑な動きをします。
食事の時、私たちは食べ物を前歯で噛みきり奥歯ですりつぶします。奥歯ですりつぶすときに噛んで歯の上からこぼれた食べ物を、舌が再度歯の上にのせて唾液と混ぜて塊にします。舌は食べ物の塊を喉のほうに送り込む働きをします。舌の力でしっかり送り込まれることで、食道に食べ物が入り飲み込むことができます。
◆舌圧が低いと誤嚥のリスクが上がる
しかし舌の力が弱いと、食べ物を喉の奥に送り込むときに食べ物がしっかりと送り込めずに、上あごや喉に食べ物が残ってしまいます。
口の中に残った食べ物が予期せずタイミングで喉のほうに落ち、食道ではなく気管に入ると誤嚥に繋がり誤嚥性肺炎のリスクとなります。誤嚥性肺炎は高齢者に多い死亡原因です。
◆滑舌が悪くなることも
舌の筋肉が低下することで、舌の動きが悪くなります。そのため滑舌が悪くなり、人と会話するのが難しくなる場合もあります。そうすると人と接することが億劫になり、ますます舌を使う機会が減ってしまいます。
舌圧計とは
舌圧計は歯科医院で舌の力を測るために使う機械です。口の中に小さな風船のような膨らんだ機械を入れて、それを上あごと舌で押しつぶしたときの力を測ります。
この時の舌圧が30kPa以下だと低舌圧と診断されます。
舌圧の低下を防ぐために
舌は筋肉の塊です。身体の筋肉を鍛えると強くなるように、舌の筋肉もしっかり使って鍛えることで強くなります。
日常生活で舌をしっかり使うためには柔らかい食べやすいものだけでなく、噛み応えのあるものを食べることが大切です。噛み応えのあるものはよく噛むことでお口周りの筋肉をたくさん動かし、その結果舌もたくさん使います。その結果舌圧も鍛えられるのです。
食べやすいものだけでなく、しっかりと噛むことが必要な食材を積極的にとりましょう。
噛み応えのあるものは、レンコン、ごぼうなどの繊維質の多い物、りんご、スルメなどの硬いもの、こんにゃく、いか、たこなどの弾力性のあるものです。
調理方法も煮ると柔らかくなってしまうので、焼いたり、揚げたりするのもおすすめです。
また、たくさん会話をしたり歌を歌ったりすることも舌を動かすことにつながります。高齢になると外出の機会が減り、人と会話をすることも減ってしまったという方も少なくありません。積極的に人と関わる機会を作ることは、社会とのつながりを維持することにもつながります。これはQOL向上のためにとても大切なことです。
また、舌圧を鍛えるための器具を使ったリハビリテーションを行う場合もあります。
是非積極的に外に出て、人と食事をしたり会話をして舌の力を鍛えましょう!
まとめ
舌は口の中でたくさんの機能を果たすとても大切な役割を持っています。しかし筋肉であるため高齢になると力が弱くなり、使う機会が減るとどんどん衰えてしまいます。
舌の機能の衰えは、食事のしにくさによる栄養状態の低下や外出機会の減少による全身の筋肉量の低下にもつながり、要介護状態へのリスクになります。
歯科医院では口腔機能低下症の診断として、舌圧の測定を行い必要な方には舌を鍛えるリハビリの仕方もお伝えします。
是非歯科医院でお気軽にご相談くださいね!