歯科医院では、妊娠可能性がある方の歯科治療のご相談を受ける事が多いです。その時々で、違う方針が必要なので詳細にお話させて頂きました。是非参考にして下さい。
目次
◯妊娠中の歯科治療のリスク
◆感染症のリスク
◆薬剤のリスク
◆放射線のリスク
◯妊娠中の歯科治療のメリット
◆口腔内の環境改善
◆妊娠後の健康維持
◯妊娠中の歯科治療のタイミング
◆妊娠前
◆妊娠初期
◆妊娠中期
◆妊娠後期
◯妊娠中の歯科治療の方法
◆麻酔薬
◆抗生物質
◆放射線
◯まとめ
妊娠中の歯科治療のリスク
妊娠中の歯科治療には、以下のようなリスクが考えられます。
感染症のリスク
歯周病や虫歯などの炎症性の疾患は、早産や低体重児の原因となることが報告されています 。そのため、妊娠前や妊娠初期には、口腔内の清潔を保ち、定期的な検診や予防的な治療を受けることが重要です。歯周病や虫歯の菌が全身に回らないようにしないといけません。
薬剤のリスク
歯科治療では、麻酔薬や抗生物質などの薬剤を使用する場合があります。これらの薬剤は、胎盤を通して胎児にも影響を与える可能性があります。特に、妊娠初期は胎児の臓器形成期であるため、薬剤の影響を受けやすく、先天異常や流産のリスクが高まります 。そのため、妊娠初期には、必要最低限の薬剤を使用し、できるだけ安全性の高いものを選択することが重要です。
放射線のリスク
歯科治療では、レントゲン撮影やCT検査などの放射線を使用する場合があります。これらの放射線は、胎児にも影響を与える可能性があります。必要最低限の放射線を使用し、できるだけ低い線量で撮影することが重要です。特に、妊娠初期は胎児の細胞分裂が活発であるため、放射線によるDNA損傷や突然変異のリスクが高まります。
妊娠中の歯科治療のメリット
一方で、妊娠中の歯科治療には、以下のようなメリットもあります。
口腔内の環境改善
妊娠中は、ホルモンの変化やつわりなどの影響で、口腔内の環境が悪化しやすくなります。これにより、歯周病や虫歯などの疾患が発生しやすくなります。そのため、妊娠中に歯科治療を受けることで、口腔内の環境を改善し、疾患の進行や合併症を防ぐことができます 。
妊娠後の健康維持
妊娠中に歯科治療を受けることで、妊娠後の健康維持にも貢献できます。妊娠中に放置された歯周病や虫歯は、出産後にも持続する可能性があります。これらの疾患は、母乳や唾液を介して赤ちゃんにも感染する恐れがあります 。また、母体の全身的な健康にも影響を与える可能性があります 。そのため、妊娠中に歯科治療を受けることで、母子ともに健康な口腔内を保つことができます。
妊娠中の歯科治療のタイミング
妊娠中の歯科治療のタイミングは、以下のように考えることができます。
妊娠前
妊娠前には、口腔内の清潔を保ち、定期的な検診や予防的な治療を受けることが望ましいです。これにより、妊娠中に発生する可能性のある歯科疾患を予防することができます。また、妊娠前には、薬剤や放射線の使用に関しても制限が少ないため、必要な治療を受けることができます。
妊娠初期
妊娠初期は、胎児の臓器形成期であるため、薬剤や放射線の使用に関しては極力控えるべきです。ただし、急性の感染や炎症など、母体や胎児に危険を及ぼす可能性のある場合は、必要最低限の治療を受けるべきです。また、つわりなどで口腔内のケアが困難な場合は、歯科衛生士によるクリーニングを受けることが有効です。
妊娠中期
妊娠中期は、胎児の臓器形成期が終了し、母体も安定する時期です。この時期は、薬剤や放射線の使用に関しても比較的安全です 。そのため、この時期に必要な治療を受けることが推奨されます 。ただし、胎動が始まる頃からは、治療時間や姿勢に配慮する必要があります。
妊娠後期
妊娠後期は、出産に向けて胎児の成長が加速する時期です。この時期は、薬剤や放射線の使用に関しても慎重になるべきです。また、仰臥位や圧迫感による胎児への影響や母体の血圧低下などのリスクも高まります 。そのため、この時期には、緊急性の高い治療以外は控えることが望ましいです。
妊娠中の歯科治療の方法
妊娠中の歯科治療の方法は、以下のように考えることができます。
麻酔薬
麻酔薬は、歯科治療において不可欠なものです。しかし、麻酔薬は胎盤を通して胎児にも影響を与える可能性があります。そのため、妊娠中には、必要最低限の量と回数で使用することが重要です。また、できるだけ安全性の高い麻酔薬を選択することが重要です。一般的には、リドカインやプリロカインなどのアミド系の局所麻酔薬が推奨されます 。エピネフリンなどの血管収縮剤は、胎児への影響が少ないとされていますが、母体への影響を考慮して使用量を調整する必要があります。
抗生物質
抗生物質は、感染症の治療や予防に用いられる薬剤です。しかし、抗生物質も胎盤を通して胎児にも影響を与える可能性があります。そのため、妊娠中には、必要最低限の量と期間で使用することが重要です。また、できるだけ安全性の高い抗生物質を選択することが重要です。一般的には、ペニシリン系やセフェム系などのβラクタム系の抗生物質が推奨されます 。テトラサイクリン系やサルファ系などの抗生物質は、胎児への影響が大きいとされていますので、避けるべきです。
放射線
放射線も胎児にも影響を与える可能性があります。そのため、妊娠中には、必要最低限の回数と線量で使用することが重要です。また、できるだけ安全性の高い放射線を選択することが重要です。一般的には、デジタルレントゲンやパノラマレントゲンなどの低線量の放射線が推奨されます 。CT検査やコーンビームCTなどの高線量の放射線は、避けるべきです。また、撮影時には、鉛のエプロンなどの防護具を使用することが重要です。
まとめ
妊娠中の歯科治療は、母体や胎児にリスクを及ぼす可能性がありますが、同時にメリットもあります。そのため、妊娠中に歯科治療を受けるかどうかは、個々の状況や必要性に応じて判断する必要があります。妊娠中に歯科治療を受ける場合は、タイミングや方法に注意することが重要です。